漫才師 石田明の想い

舞台袖に置かれている鏡を見た。白の靴に白のパンツ、白のベルトに白のシャツ、そして白のネクタイ。危ない香りのする宗教にどっぷりと浸かっているような服、「12ラウンドをフルで戦ったの?」というような腫れ上がった頬骨、今までに相当な回数の詐欺被害を受けたであろう瞳の男が立っている。「NON STYLE」というお笑いコンビの石田明。そう、私だ。

舞台上では後輩の「和牛」が爆笑をかっさらっている。自然と自分の口角が上がっているのがわかる。荒削りだった「首の座っていない漫才」がどんどん切れの良い「アスリート漫才」に仕上がっていく様が見られるのはこの上ない喜びだ。そして彼らがグランプリで優勝をおさめ数年経った頃、その「アスリート漫才」が憎たらしい程の「内脂肪たっぷりの漫才」へとどっしりしていく様がこれまた堪らない。と、漫才オタクぶりが炸裂させている場合ではない。和牛の爆笑を超える漫才を次に披露しなければならないのだ。

川西の粘っこい「もうええわ」が38(サンパチ)マイクにつき刺さり、下げ囃子とともに和牛が袖にはけてきた。爆笑をかっさらった芸人特有の清々しい表情をしている。10分後、私はあの表情が出来ているだろうか。いつの間にか私の前に四コマギャグ漫画体型の男が、長年クリーニングも出していないスーツを身にまとい立っていた。相方の井上裕介だ。彼はいつも突然現れ忽然と去っていく。まさに風貌以外はスターそのものだ。彼のその「勘違いっぷり」とそれが生み出す「滑稽さと気持ち悪さ」、そしてそれをすべて増幅させる「アレ」が私のエンジンを熱くし、NON STYLE最大の武器「スピード」を生み出す。とてつもないストレスだが爆笑をかっさらうためだ。仕方がない。私は両方の掌で頬を打った。

あらゆる色の照明が煽る中、私たちは38マイクへと向かう。小走りで拍手をしながらの、これぞ「往年の漫才師」スタイルの私。打って変わってゆっくりと歩きながら照明の光に目を細め前髪の微調整をしながらの、何故か「俳優の舞台挨拶」スタイルの井上。毎度の事ながら後頭部を蹴りたくなる。昔は私と同じ「往年の漫才師」スタイルだったのだが、いつしか彼は変わってしまった。「超絶調子に乗りやすいタイプ」なので仕方がないとは思っている。が、私が思う「かっこいい漫才師像」とはかけ離れていっていることが寂しい。
私が「どーーーもーーーーー!」と大声をあげながら38マイクの前にたどり着く。横には彼はいない。彼が先に38マイクに向かったのだが、この短い道中で追い抜いてしまっているからだ。少し遅れて彼が38マイクにたどり着く。その瞬間、マイクに顔を寄せ「ども」とこれまた「俳優の舞台挨拶ボイス」である。彼は恐らく「一生懸命やるのなんてかっこ悪い。手を抜くのがかっこいい」という中学生の帰宅部と同じ考えなのだろう。心底ダサいと思うが、その「ダサさ」は彼の取り柄でもある。そしてこの時いつもこう思う。「マイクが可哀想」だと。

石田「どーーーもーーーーー!」
井上「ども。NON STYLEです」
石田「おねがいしますーー!」

続きは、小説BOCで。

“漫才師 石田明の想い” への9件の返信

  1. すごく引き込まれました…
    井上さんへの気持ち、漫才への想い、とても伝わりました。
    私は、毎回石田さんの「どーーーもーーーーー!」と井上さんの「ども」の声から始まる漫才が大好きです!
    ネタも面白くて爆笑しちゃってます…(笑)
    いつも元気をもらっていて、感謝しかないです。ありがとうございます!
    最後の写真かわいすぎます…

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  2. 一瞬にしてひきこまれた……
    そして、これからてときに
    続きは、BOC小説で。( ̄∀ ̄)
    やられた…わたしは、今日の仕事帰りに本屋に立ち寄ることになりそうだ。

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  3. 「火花」東京千秋楽おつかれさまでした。
    次は大阪公演ですね。
    それまでは、通常使用の白い石田さんでノンスタイル 漫才!!
    大阪「火花」チケット取ってるので行きますね。
    どーしても堪能したくて泊まりでチケット取りました(TT)2回みに行くから、原作だけ読んで映画見ないでいこうと決断 笑
    そしたら、1日は、公演後スパークスの漫才が観れて、もう1日は、アフタートークが観れるらしい!!まじめに働いてて良かったー。夜行バスの時間が許す限り劇場にいますので思う存分にアフタートーク喋り倒してください💖
    ノンスタイル 石田さんの漫才はずっと堪能してきました。
    ほんの少しだけガチ石田さんとは真逆の漫才し神谷を見届けます。
    頑張ってください。
    では、大阪で!!

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  4. あ、買おう。
    舞台「火花」旦那と見に行きました。
    あほんだらの漫才、新鮮でした。
    お笑いに関わって淘汰されたすべてのやつに意味があるって、舞台にカナリアが映って、ほんとにそうだなぁと。台詞だけど、本当にそう思ってるのかもしれないとぼんやり思いました。又吉さんの心の叫びかもしれない。
    火花は映画も見たんですが、だんだん自信がなくなってヘタれていく神谷の人間っぽさは舞台がよかったと思います。また舞台や漫才楽しみにしてます。

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  5. 石田さんブログ変えたんですね。Yahoo!ブログに投稿が無かったのでどうしたのかと心配しました~。
    石田さん大好きです。たまに石田さんの一人ライブの動画見て笑わせてもらっています。慣用句のネタは何度見ても笑っちゃいます♥また、石田さんのOfficialユーチューブに動画をアップしてほしいです!!楽しみに待っています!!石田さんは映画の監督や舞台の演出をやっていると知って驚きました!!(゜∀゜)
    いつか、映画も見たいですし、演出された舞台も見たいです!!何でこんなに多才(多彩)なんですか!!??カッコイイです!!石田さんが活躍している姿を見ているとなんか嬉しいです!素敵です!これからも活躍を楽しみにしています!!

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  6. 舞台「火花」を、堪能したぽんすけです。
    石太郎(ももたろう)の部下?!犬、猿、キジのクオリティの高さに、笑う今日この頃です。彼らはキビダンゴくらいでいうこときいてくれるのでしょうか?笑
    見たかった…植ちゃんとの第2弾もみたかった…東京…遠い目…笑
    さて、ノンスタイル単独ツアー。
    大阪、香川どっちでもいいから当たれー🎉と応募
    ㊗️香川当たりました。四国までわざわざきてもらってありがとうございます。井上さん嫌がってなかったですか?
    チケット
    2階席だけどセンターあたり。嬉しいです。照れ屋で石田さんには正体明かせない私としては絶妙な席。2階にもメッセージか手を振ってくださいね 笑
    楽しみにしています。

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